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モーター・ドライブの効率と性能を理解するための 5 つの重要テスト・ポイント

モーター、駆動装置、ポンプ、コンプレッサー

モーター・ドライブは AC 主電源の固定電圧を、モーター・トルクを制御する可変電圧に変換し、機械装置の負荷を駆動するモーターに最適な速度を調整するための普遍的な技術です。モーター・ドライブは単純な直結モーターよりも効率性に優れ、単純な直接駆動型モーターでは得られない制御性を発揮します。以上の要因により、エネルギー・コストの節約、生産パフォーマンスの向上、モーター寿命の延長が可能になります。

MDA Profile.jpg

米国エネルギー省 (DOE) によると、モーター・システムはほぼすべての工場の稼働に不可欠なものとなっており、すべての使用電力の 60% ~ 70% を占めています。また同省は、可変周波数駆動 (VFD) 方式を、工場のコストを大幅に削減するものとしています。モーター・ドライブが多くの産業や設備で広く使用されているのは驚くことではありません。これらのモーター・システムの稼動時間を保証し、メンテナンスとトラブルシューティングを確実に行うことが優先課題です。

モーター・ドライブのテストにおける課題

可変周波数駆動 (VFD)、可変速駆動 (VSD)、速度制御駆動 (ASD) 方式のモーター・ドライブは、多くの場合、専門家がオシロスコープ、デジタル・マルチメーター、その他テスト・ツールなど、多くのテスト機器を使用してトラブルシューティングとテストを行います。こうしたテストは、ある程度の試行錯誤が伴い、旧来の消去法による手法が用いられます。モーター・システムは複雑であることから、システムに故障の兆候が見られなければ、多くの場合にテストは年に一度だけです。装置の作業履歴がないか、不完全であることが通例であることを考えると、どこからテストを始めるかを決めるのも問題です。作業履歴には、個々の装置について以前に行われた具体的なテストや測定、完了した作業や現状を記した文書が含まれます。テスト技術が進歩したことで、いくつかの課題は解消されています。Fluke モーター・ドライブ・アナライザー MDA-510/MDA-550 などの新型機器は、モーター・ドライブのテストをより効率的、効果的に行うように設計されており、テストの各ステップでプロセスを文書化する機能を備えています。これらのレポートを保存して以降のテストと比べることで、モーター・ドライブのメンテナンス履歴が把握しやすくなります。

VFD のトラブルシューティングを簡単に

計測機能、携帯型オシロスコープと記録装置と、熟練のインストラクターによる手引きの組み合わされたこれらの高度なモーター・ドライブ・アナライザーでは、画面上の指示と分かりやすいセットアップ図、モーター・ドライブの専門家が作成した主要テストの各手順の説明を利用することができます。複雑なテストをステップごとの簡単な手順で行える新しい方式により、熟練したモーター・ドライブの専門家は作業を迅速に行い、必要なデータを確実に入手することが可能です。経験の少ない技術者も、モーター・ドライブの分析を迅速に始めることができます。

モーター・ドライブ・システムの障害の根本原因の把握や、定期的な予防メンテナンス検査は、システムの主要ポイントで一連の標準テストと測定を行うことによって最適な形で行うことができます。電源入力に始まり、さまざまな測定手法と評価基準による主要テストをシステム全体で行い、最終的に出力をテストします。

モーター・ドライブのトラブルシューティングのための基本的なテストを以下に説明します。

Fluke モーター・ドライブ・アナライザーはこれらのテストを指示に従って進められ、必要な計算の多くは自動で行われるので、確実な結果を得ることができます。また、ほとんどすべてのテスト・ポイントでデータをレポートに保存でき、CMMS (Computerized Maintenance Management System) にアップロードすることや、同僚やコンサルタントと共有することが可能です。

安全上の注意: テストを始める前に、製品の安全に関する情報をお読みください。1 人で作業をすることはせず、国内の安全規則に従ってください。感電やアーク放電による怪我を防ぐため、危険な活性導体が露出しているところでは個人用保護具 (承認された絶縁グローブ、フェイス・カバー、難燃素材の衣服) を着用してください。

Fluke モーター・ドライブ・アナライザーでテストを始めるには、図に従ってテスト・プローブを接続し、[Next (次へ]) を押してください。

位相のつながり
段階を追ったガイドに従ったドライブ入力接続部の測定

1.ドライブ入力

モーター・ドライブに供給される電力の分析は、基準電位に影響する歪み、外乱や雑音がドライブの供給回路にないかを知る上で役立つ最初のステップです。

テスト

ドライブの定格電圧を実際の供給電圧と比較することで、値が許容範囲内にあるかどうかがすぐに分かります。限界から 10% 以上のずれがある場合、供給電圧に問題のある可能性があります。入力電流が最大定格の範囲にあり、コンダクターのサイズが適切であるかを確認してください。

  • 測定した周波数を仕様と比較します。0.5Hz 以上のずれがあれば問題の原因となる可能性があります。
  • 高調波歪みが許容レベル内にあることを確認します。波形表示を見るか、高調波スペクトル画面で全高調波歪みと高調波を個々に調べます。例えば、フラット・トップの波形は、同じ供給回路に非線形の負荷が接続されていることを示す場合があります。全高調波歪み (THD) が 6% を超える場合は、潜在的な問題が存在します。
  • 入力端子で電圧の不平衡を確認することで、位相の不平衡が高すぎず (6 ~ 8% 未満)、相回転が適切かを確認できます。高電圧の不均衡は位相の障害を示す場合があります。2% を超える値はノッチングが発生し、ドライブ過負荷保護装置のトリッピングやその他装置の障害の原因となることがあります。
  • 電流の不均衡をテストします。過剰な不均衡は、ドライブの整流器の問題を示す可能性があります。6% を超える不均衡は、モーター・ドライブのインバーターの問題を示し、問題を起こす場合があります。

2.DC バス

ドライブ内の AC-DC 変換は重要なプロセスです。最適なドライブ性能のためには、正しい電圧と低リップルの適切な平滑化が必須です。高リップル電圧は、コンデンサー故障または不適切なサイズのモーター接続を示している可能性があります。Fluke MDA-500 シリーズ・モーター・ドライブ・アナライザーの記録機能は、負荷がかかった状態の稼働モード時に DC バス性能を動的に確認できます。もしくは、Fluke ScopeMeter® テスト・ツールや高性能マルチメーターもテストに使用できます。

テスト

Drive DC Bus DC Level1
DC バスのリップル
  • DC バス電圧が入力ライン電圧のピークと比例していることを確認します。制御された整流器の場合を除き、電圧は RMS ライン電圧の約 1.31 ~ 1.41 倍である必要があります。DC 電圧値が低いとドライブのトリッピングの原因となります。これは、入力主電源の低電圧や入力電圧の歪み (フラット・トップなど) によって生じます。
  • ライン電圧のピーク振幅に歪みやエラーがないか確認します。これは過電圧や電圧不足エラーの原因になります。DC 電圧値が公称電圧から +/- 10% ずれる場合は問題を示している可能性があります。
  • AC リップルのピークに異なる反復レベルがないか確認します。AC-DC 変換の後に若干の AC リップル成分が DC バスに残ります。40V を超えるリップル電圧は、コンデンサーの異常か、ドライブ定格が接続するモーターや負荷に対して小さすぎることが原因として考えられます。
Drive Output Voltage Current1
ドライブ出力の電圧と電流

3.ドライブ出力

ドライブ出力のテストはモーターの正常な動作のために欠かせないテストで、ドライブ回路の問題を知る手がかりになります。

テスト

  • 電圧と電流が制限値の範囲内にあることを確認します。高出力電流によってモーターが高温になり、ステーターの絶縁寿命を短くすることがあります。
  • 電圧/周波数 (V/Hz) の比率を調べて、モーターの仕様範囲内にあることを確認します。比率が高いとモーターの過熱、低い場合はトルク損失につながる場合があります。周波数が安定して電圧が不安定な状態は DC バスの問題を示している可能性があり、周波数が不安定で電圧が安定した状態はスイッチング (IGBT) の問題を示している可能性があります。周波数と電圧が不安定であれば、速度制御回路の問題を示している可能性があります。
  • 電圧 - 周波数比 (V/F) と電圧変調の両方に注目して、ドライブ出力を確認します。V/F 比測定値が高い場合、モーターの過熱が考えられます。V/F 比が低い場合、実施しようとするプロセスに必要なトルクが、負荷時に接続したモーターから十分提供できないことが考えられます。
  • 位相差を測定して、電圧変調を調べます。高電圧のピークは、モーター巻線の絶縁を損傷させ、モーターのトリッピングの原因になることがあります。電圧ピークが公称電圧の 50% を超えると問題がある可能性があります。
  • ドライブの値が示すスイッチング・インパルスの急峻度を調べます。dV/dt 読み値 (時間に従って変化する電圧率) により、立ち上がり時間、またはインパルスの勾配傾斜が示されます。これをモーター仕様に指定された絶縁と比較する必要があります。
  • AC-DC のスイッチング周波数をテストします。電子回路のスイッチングや設置に問題の可能性がある場合は、信号の上下変動にそれが示されることがあります。
  • 電圧の不均衡を (できれば全負荷時に) 測定します。不均衡は 2% 以内でなければなりません電圧の不均衡は電圧の不均衡の原因となり、モーター巻線の過熱につながります。不均衡の原因として、ドライブ回路の故障が考えられます。モーターに障害が発生した場合 (「単相」になっている)、モーターの過熱、停止後に始動できないことや、大幅な効率低下のほか、モーターや接続不可に損傷を与えることがあります。
  • 電流の不均衡を測定します。三相モーターの場合、10% を超えてはなりません。低電圧の状態で不均衡が大きい場合は、モーター巻線の短絡や位相間の短絡を示している可能性があります。また、ドライブのトリッピング、モーターの高温、巻線が焼ける原因となる可能性もあります。

4.モーター入力

モーターの入力端子に供給される電圧が重要です。ドライブからモーターに接続するケーブルも重要な要素です。配線の選択が不適切な場合、反射電圧ピークが過剰に高くなり、ドライブとモーターの両方に損傷が発生するおそれがあります。これらのテストは、上記のドライブ出力の場合とほとんど同じです。

テスト

  • 端子の電流がモーター定格の範囲内であることを確認します。過電流はモーターを発熱させ、ステーターの絶縁寿命を短くして、モーターの早期故障につながる可能性があります。
  • 電圧変調を見ると、モーターの絶縁を損傷するおそれのある対地電圧の高ピークが分かります。
  • 電圧の不均衡はモーターの寿命に大きく影響し、インバーターの故障を示している場合があります。これにより電圧にノッチングが生じ、過負荷保護装置のトリッピングの原因になることがあります。
  • 電流の不均衡は電圧の不均衡またはドライブ整流器の問題を示している可能性があります。
MDA エンジニア

5.モーター・シャフト電圧

モーター・ドライブの電圧パルスは、モーターのステーターからローターへと連動し、ローター・シャフトに電圧が出現する原因となります。このローター・シャフト電圧がベアリング・グリースの絶縁能力を超えると、フラッシュオーバー電流 (スパーク) が発生し、モーター・ベアリング・レースに穴や溝ができ、モーターの早期故障につながる損傷が発生します。

テスト

  • モーター・シャーシとドライブ・シャフトの間の電圧を測定します。MDA-550 などは、このためのカーボン・ファイバー製のブラシ・プローブが付属しています。テストにより、破壊的なフラッシュオーバー電流の存在を容易に検出できるとともに、インパルス振幅とイベント数を検出できるため、故障が発生する前に措置を講じることができます。
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デモ依頼フォームに記入いただくと、フルークの認定エンジニアより連絡の上、デモの日時を調整いたします。お客様の現場で、必要な測定を重点に、実践的なデモを実施します。デモを通じて、当社の機器がいかに使いやすいかがおわかりいただけると思います。また、機器と関連アクセサリーのトレーニングとコンサルティングも実施しております。最適な機器を選択して購入いただき、最大限ご活用ください。

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